2025/05/22 11:26
前回は家族で使うことを前提に、
栞を複数枚のセットで、
並べると繋がりを表現できるようなデザインを
目指していること、
そしてデザインのメインモチーフを
「波」と「地層」に絞り込んだところまで
お伝えしました。
今回は、そのデザインをいよいよ
具体的な形にする段階で起きた
予期せぬ「問題」についてです。
▷初めての真鍮加工で直面した現実
モチーフも決まり、さあデザインを形にしよう、
という段階に入りました。
今回、真鍮という素材を初めて使うにあたり、
私たちはこれまで木材の加工で
慣れ親しんできた「レーザー加工機」を使って、
デザインを表現しようと考えていました。
木材へのレーザー加工は、
木の表面を焼いて文字や絵を刻印するというものです。
ちょうど焼き印のように、加工部分は熱で焦げて少し凹みます。
それに対して真鍮へのレーザー加工は、
木材のように素材そのものを焼いて削るのではなく、
特殊な「マーキング材」を表面に塗布し、
その上からレーザーの熱を当てることで、
真鍮の表面にマーキング材を定着させます。
イメージとしては、印刷に近いかもしれません。
データ通りにデザインを転写すること自体は、
技術的には成功しました。
図案はしっかりと真鍮の表面に定着しました。
ところが、その「風合い」が、
私たちの想像していたものと大きくかけ離れていたのです。
色の付き方や、表面の質感。
それは、真鍮という素材が持つ独特の美しさや、
経年変化によって生まれる味わいを
全く活かせていないように感じられました。
まるで、真鍮の上にただ色が乗っているだけで、
真鍮らしさが失われてしまっているような。
これでは、せっかく選んだ
真鍮という素材の魅力が半減してしまう、
と感じざるを得ませんでした。
▷「刻印ありき」のデザインと技術的な限界
実は、私たちが考えていた波や地層のデザインは、
真鍮の表面にこのレーザー加工による
「刻印」を広範囲に施すことを前提としていました。
特に、地層のデザインは、
様々な層の複雑な模様を、
真鍮の表面全体を使って表現しようと考えていました。
そのためには、真鍮の表面の大部分を
レーザーで加工する必要があったのです。
でも、試してみたレーザー刻印の風合いでは、
このデザインをそのまま進めるのは難しい、
という結論になりました。
せっかくの真鍮の質感が隠れてしまい、
私たちが目指す「家族と共に美しく育つしおり」
というイメージとはかけ離れてしまうからです。
▷技術的な問題への対応策①:手作業への挑戦
レーザー加工がイメージと違った、
となると、考え直さなくてはいけません。
この刻印の風合いを前面に出すのは難しい。
では、どうすれば、私たちのイメージしている
波や地層のデザイン、特に地層の複雑な模様を、
真鍮という素材の上で表現できるだろうか?
私たちは、レーザー加工に代わる方法として、
「手作業」での加工を試してみることにしました。
レーザーのような均一でデジタルな加工ではなく、
手作業ならではの温もりや、
一つ一つ異なる表情を出すことで、
デザインを表現できないかと考えたのです。
具体的には、
ヤスリを使って表面に細かな傷をつけたり、
ハンマーで叩いて金属の表面に
凹凸のテクスチャ(槌目)をつけたり、
リューターという電動工具で表面を削ってみたりと、
様々な方法を試しました。
これらの手作業による加工を重ね合わせることで、
まるで本物の地層の断面図のような、
複雑で豊かな表情を真鍮の表面に作り出そうと試みました。
この手作業による加工は、
それはそれで悪くはありませんでした。
金属の表面に手仕事の跡が残り、
一つ一つ異なる表情が生まれる様は、
温かみがあり魅力的でもありました。
▷手作業を断念した理由 ~プロとして届けられる品質か?~
でも、残念ながら、
この手作業での加工による商品化は
断念せざるを得ない、という結論になりました。
なぜなら、これを商品として
お客様にお届けするレベルで、
「一定のクオリティを保つのが難しい」
という現実を突きつけられたからです。
私たちは、商品のコンセプトやデザインを考える上では
プロであると自負しています。
でも、金属の複雑な手作業での加工技術においては、
私たちは職人ではありません。
ヤスリやハンマー、リューターを使った加工は、
やればやるほど奥が深く、
習得には長い経験と熟練が必要です。
複雑な加工になればなるほど、ど
うしても「素人っぽさ」が否めない
仕上がりになってしまいました。
私たちの手で心を込めて作ったものであっても、
お客様に自信を持ってお届けできる品質、
つまり、誰が手にしても
「丁寧な仕事がされているな」と感じていただけるような、
均一で美しい仕上がりを実現することは、
今の私たちの技術では困難だと判断しました。
手仕事の温かみと、
商品としての均一な品質のバランスを
取ることの難しさを痛感した瞬間でした。
▷再び立ち止まる ~想定外の壁と、モノづくりの難しさ~
こうして、頼みのレーザー加工もイメージと違い、
手作業での加工も商品化は難しい、という状況になり、
私たちは再びどうすれば良いのか分からなくなり、
立ち止まってしまいました。
ちょうどこの時期、
ワークショップを控えており、
新商品開発に集中できる時間が
限られていたこともあり、
必然的に開発から少し離れる期間が生まれました。
しおりを作ろうと決めてから、
この時点で大体2ヶ月ほどが経過していました。
当初の予定では、この頃にはもう商品が完成し、
皆さまにお披露目できているはずだったのですが、
現実は全く思い通りに進みません。
特に、これまで得意としてきたレーザー加工が、
新しい素材である真鍮で
まさかイメージ通りにならないとは、
全く想定外でした。
レーザー加工を使わない、
または限定的にしか使えないとなると、
これまでのデザインや、
もしかすると素材に対する考え方自体も、
根本的に見直す必要があるのかもしれない。
そんな戸惑いの中で、
改めてモノづくりの奥深さ、そ
して難しさを痛感しています。
▷困難の先にある光
技術的な壁にぶつかり、
デザインの方向性を見失いかけ、
再び立ち止まってしまった今回の状況。
開発ストーリーとしては、
一見停滞しているように見えるかもしれません。
でも、この困難を乗り越えなければ、
私たちが心から納得できる、
そしてお客様に喜んでいただける
「真鍮のしおり」は完成しないと感じています。
