hatto

2025/05/15 15:13

前回は、新商品が「真鍮のしおり」に決まった経緯、
そして「読書というある意味孤独な時間の始まりと終わりに
家族を感じられるしおりを通して、本を読む時間をより豊かにしたい」
というコンセプトについてお話ししました。

アイテムとコンセプトが決まったら、
次はいよいよ商品の具体的な形が見えてくる、
デザインのアイデア出しの段階へと進みます。

-----

デザインのアイデア出しー自由な発想から生まれる可能性

アイデア出しは、
思いつく限りのアイデアを言葉にして、
お互いに投げかけ合う時間です。

キャッチボールのように、
「こんなのはどう?」
「それなら、こうしたらもっといいんじゃない?」
と、ポンポンとアイデアが飛び交います。

この段階では、実現可能かどうかは一旦置いておき、
自由な発想を大切にしています。

例えば、これまでの商品と同じように、
文字や数字を刻印できるしおりはどうだろうか、
というアイデアが出ました。

家族の名前や誕生日、心に残る本のフレーズなどを刻印すれば、
世界に一つだけの、その家族だけの特別なアイテムになります。
使い込むほどに味が出る真鍮素材なら、
刻印された文字も共に深みを増していきます。

他には、しおりに書き込めるスペースを設けてはどうか、
というアイデアもありました。

読んだ本の感想や、家族におすすめしたいページをメモしたり、
子どもが気に入った絵本の挿絵を描いたり。
しおりが単なる目印としてだけでなく、
家族間のちょっとしたコミュニケーションツール
そして読書の記録としても機能するものになるかもしれない。

書き込まれた文字や絵は、その時々の家族の読書生活の証になって、
しおりそのものが家族の歴史を語るアイテムになるかもしれません。

他には、複数のしおりを揃えることで
一つの絵や模様が完成するデザイン案も出ました。

例えば、家族の人数分を揃えると、ひとつの絵が完成するような、
しおりを使うたびに家族の存在を感じられるような、
視覚的な仕掛けを持たせるアイデアです。

家族のコミュニケーションを促す「仕掛け」か、暮らしに馴染む「シンプルさ」か

いろんなアイデアが出る中で、
実はこの段階で夫と私の意見が大きく分かれました。

夫は、このしおりに
「家族のコミュニケーションを促す仕掛け」
を持たせたいと考えていました。
先ほどの書き込めるしおりのように
子どもが絵本を読んでいて面白かった部分に印をつけたり、
「パパ、ここ読んでみて!」とメッセージを添えたり。

しおりをきっかけに、
読書という個人的な体験が、家族の会話に繋がり、
絆を深めるツールになることをイメージしていました。
アイテム自体が家族の関係性に働きかけるような、
そんな仕掛けを商品に盛り込みたいという
クリエイターとしての視点があったのだと思います。

それに対して私は
「仕掛けはない方が良い」と考えていました。
理由はシンプルに、「面倒なことは続かないから」です。
もちろん、しおりをきっかけに家族の会話が弾んだり、
メッセージを交換したりできたら、
それはとても素敵なことだと思います。

でも、私たち自身の暮らしや、
日々忙しく過ごしている多くのご家庭の日常を想像したとき、
そこに「仕掛け」という一手間が加わることで、
使うこと自体が億劫になってしまうのではないか、
と感じました。

だからこそ、しおりはしおり本来の機能、
つまり本の間に挟んで目印にするという
シンプルな機能に特化している方が、
無理なく日々の暮らしに溶け込み、
長く愛用されるのではないかと考えました。

意見の相違、そして「納得」への道のり

夫の「仕掛け」を求める考え方と、
私の「シンプルさ」を重視した考え方。

この二つの意見は平行線をたどり、
その日の話し合いは一時中断となりました。

この開発プロセス、特に意見がぶつかり合う瞬間は、
私にとって正直なところ、割としんどい工程です。

夫は本業でも建築設計に携わる、
正真正銘のクリエイターです。
その専門的な知識やデザインに対する深い洞察は、
常に尊敬していますし、
夫の考えの方が「正しい」のかもしれない、
と思うこともあります。

それでも、私がどうしても譲れないものもあります。
それは、そのアイテムを通して、
お客様に心から喜んでほしい、
買ってよかったと心底思ってほしい

という強い願いです。

そのために、お客様の日常に寄り添えるか
無理なく使い続けられるか、といった
ユーザーとしての視点をどうしても主張したいし、
私自身が心から「これが良い」と思えないものに対して、
「良いね」と同意することも、
なかなか難しいと感じています。

商品開発での夫婦間の意見の違いは、
どちらかが一方的に
妥協して終わるべきではないと考えています。
お互いの意見の根底にある思いや
価値観を深く理解し合い、
納得いくまで擦り合わせていくことが何よりも大切。

この擦り合わせの過程は、時にぶつかり、
悩むこともありますが、
二人で真剣に向き合ったからこそ
見えてくる新しい視点や、
一人ではたどり着けなかったであろうアイデアが
必ずあります。

完成した商品を見た時、
「二人で考えたからこそ、この形になったな」
と毎回実感するので、この難しくしんどい工程も、
商品がより良いものになるためには
必要なプロセスなのだと思っています。

家族の絆と共にあるしおりを目指して

単なるモノを作るのではなく、
そのアイテムが「家族の絆」をどう育むか、
暮らしにどう寄り添うかという視点に立つからこそ、
生まれてくる悩みであり、
真剣な議論なのだと感じています。

この後も、二人で納得できる形が見つかるまで、
話し合いは続きます。
どんなデザインになるのか、
どんな機能が加わるのか、加わらないのか。

この「真鍮のしおり」が、
使う人の読書時間を豊かにし、
ふとした瞬間に家族の温もりを感じさせてくれるような、
そんな存在になることを目指して、進めていきます。

このあとの進捗も、またお伝えしていきますので、
どうぞお楽しみに。