2025/02/10 12:03
「この大きさだと、反りが気になりますね」
桐箱職人さんの言葉に、少しがっかりしてしまった。
Lサイズのメモリアルボックスをつくるとき、最初に考えていたのは、箱の内側にぴったりとはまるインロー蓋(ふた)だったから。
見た目がすっきりとして、無駄がなく、シンプルで美しい。その形が理想的だと思っていた。

でも、「木」という素材は、生きている。
湿度や温度の変化に敏感で、環境によって変形する。
特に30センチを超えるこの大きさになると、それは無視できないほどになる。
「インロー蓋だと、反ったときにズレが目立ってしまいます。開け閉めがしづらくなることもあるかもしれません」
職人さんの意見には基本的に逆らわない。
それは長年桐箱と向き合ってきたものだから。
箱の大きさに対する蓋の選択、木の特性を踏まえた構造。そういった桐箱の専門的な部分は、プロに任せるのが一番いいと信じている。
ものづくりにおいて、経験に勝るものはない。
そして、職人さんが提案してくれたのは「かぶせ蓋」だった。
かぶせ蓋は、蓋の縁が少し立ち上がることで、木が反ってもその影響が出にくい。インロー蓋のようにピッタリとはまるものではない分、微細な動きを受け流すことができる。さらに、開け閉めがしやすく、蓋がすっと落ちていく感覚も心地いい。

「これなら、長く使ってもストレスが少ないと思います」
職人さんの提案を聞きながら、メモリアルボックスの役割を改めて考えた。
この箱は、ただの収納箱ではない。
小さな靴下、はじめて履いた靴、産着やおくるみ・・・
すべてが家族にとってかけがえのない思い出のかたまり。
そのひとつひとつを守り、
いつでも手に取って振り返ることができるように。
この箱を開けるたび、手に触れるたび、あの頃の感情がよみがえるように。

「こんなに小さかったんだね」
「このおもちゃでよく遊んでたね」
そうやって、家族が一緒に思い出を語り合う。
そんな時間をつくるためにある、メモリアルボックス。
だからこそ、蓋ひとつにもしっかりこだわりたかった。
思い出を守るために、安心して開けられる蓋、年月が経っても違和感なく使い続けられる形。
「これが一番しっくりきますね」
職人さんがそういったとき、私たちも心から納得した。
見た目の美しさだけでなく、使うたびに感じる心地よさと安心感。それは私たちが目指しているもの。
このメモリアルボックスが、これから先もずっと、
大切な思い出を守り続けますように。
そう願いながら、ひとつひとつ仕上げている。